遺伝性血管性浮腫（HAE）について

HAEの治療

HAEの発作時の治療
HAE発作に対して、適切な治療を受けるために
HAEの発作が起きるのを抑える治療

監修：福岡市民病院院長堀内孝彦先生

HAEの発作時の治療

残念ながら、今のところはHAEを完全に治す治療法はありません。
しかし、HAEの発作（腫れや痛み）が起きたとき、発作を鎮める治療法が2つあります。
1つはブラジキニンのB2受容体に作用してその働きを妨げる治療法、もう1つはC1インヒビターを補充することで、ブラジキニンが過剰に産生されることを抑える治療法です。

①ブラジキニンのB2受容体に作用してその働きを妨げる治療法

腫れや痛みを起こす直接の原因であるブラジキニンの働きを妨げて腫れや痛みを起こさないようにします。
現在、国内では、お腹の皮下（皮膚の下）に注射するお薬があります。
かかりつけの医療機関で、ご自身で注射できるように自己注射のトレーニングを受けたうえで、あらかじめ処方してもらえれば、自己注射が可能となります。
HAEの治療について書かれた海外のガイドラインでは、HAE患者さんは常に、少なくとも2回分の発作治療に相当する治療薬を携帯することが推奨されています。主治医にご相談ください。

②C1インヒビターを補充することで、ブラジキニンが過剰に産生されることを抑える治療法

HAE患者さんで不足しているC1インヒビターをお薬として補充します。
ヒトの血液を原料としてC1インヒビターを取り出してお薬にしたもので、静脈注射や点滴で投与します。
このお薬を患者さん自らが静脈注射や点滴をすることは認められておりませんので、必ず医療機関を受診して治療してもらう必要があります。

これら2つの治療法は、どちらもHAEの発作による腫れや痛みに有効です。
どの治療法を選択したらよいかについては主治医の先生にご相談ください。

HAE発作に対して、適切な治療を受けるために

①HAEの発作は早めの治療が必要

HAEの発作では、呼吸が苦しく感じるような顔の腫れやのどの腫れ、激しい腹痛が起きることがあります。
これらの発作は、早く治療すれば腫れや痛みがひどくならず、症状が早く治まることが分かっています。
※発作によっては複数回の治療が必要な場合もあります。くわしくは主治医にご相談ください。

「HAEによる浮腫の直接的な原因はブラジキニン」のパートで解説したように、HAEの浮腫は、過剰に作られたブラジキニンがブラジキニン受容体にくっついて血管内の水分を血管の外（皮膚の下）に漏れ出させることで、どんどん腫れが大きくなります。

ダムのわずかな水漏れがやがて堰を切って洪水になっていく様子を思い浮かべてください。
ダムからちょろちょろと水漏れが始まったら、大洪水に至る前に、速やかにダムの水漏れを堰止めることが重要であるように、HAE発作によって腫れ始めたら、できるだけ早く適切な治療薬で治療することを心がけてください。

腫れの症状が出始めたら、お薬を携帯している場合には、できるだけ早く自己投与して発作を抑えるように対処してください。
医療機関で治療を受ける場合は、できるだけ早くかかりつけの病院を受診するようにしてください。

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②HAEであることを必ず医師に伝える

緊急の場合には、主治医以外の診療が必要な場合もあるでしょう。
そのようなときは、ご自身がHAEであることを必ず医師に伝えてください。
なぜかというと、HAEの発作を鎮めるためのお薬が、すべての医療機関で常に準備されているとは限りませんし、HAEの症状と似た病気はいくつもあるからです。
病気ごとに治療法も異なります。ですから、適切な診断を受けるためにもご自身がHAEであることを医師に伝える必要があります。

HAEカード

自分がHAEであることを医師、看護師または薬剤師に伝えるためのカードです。

⇒詳細はこちら

例えば、食べ物、薬、虫刺され（蜂など）などで起きるアナフィラキシーは命にかかわることがある重大なアレルギーの一種ですが、HAEの症状に似た“のどの腫れ”が起きることがあります。
アナフィラキシーの治療には、抗ヒスタミン薬、エピネフリン（アドレナリン）製剤、ステロイドが使われますが、HAEに対して効果はありません。

また、HAEによる激しい腹痛は、虫垂炎などの急性の腹痛と間違えられ、不要な開腹手術をされてしまう可能性もあります。
こうした間違いをなくし、発作に対する適切な治療を迅速に受けられるようにするためにも、HAEという病名を必ず医師に伝えることが大切です。

HAEの発作が起きるのを抑える治療

HAEを完全に治す治療法はありませんが、HAEの発作が起きるのを抑える治療法があります。
治療法は2種類あり、1つは発作が起きるのを「短期的に抑える治療法」、もう1つは「長期的に抑える治療法」です。
発作が起きるのを短期的に抑える治療法では、歯科治療、出産、手術など、発作が起きるきっかけになる可能性がある処置や出来事の前に、あらかじめ発作が起きることを予測してお薬を投与します。一方、長期的に抑える治療法では、定期的にお薬を投与することで発作が起きるのを防ぎます。

短期的に抑える治療法

国内では、抜歯や手術などを控えていてHAEの発作が起きる危険性がある場合には、C1インヒビターを補充するお薬を投与してもらうことができます。
抜歯や手術などを予定している場合には、主治医の先生にご相談ください。

長期的に抑える治療法

ブラジキニンを作り出す血漿カリクレインという物質の働きを妨げるお薬を定期的に投与することで、発作が起きるのを抑えます。
現在、皮下に注射するお薬と、飲み薬があります。

HAEの発作が起きるのを抑える治療では、発作の原因となるブラジキニンができるのを妨げることで、患者さんの発作の回数を減らすことが期待できます。
海外のガイドラインでは、HAEの治療目標を「病気を完全にコントロールして、患者さんの生活を健全化すること」としており、現在のところ、定期的なお薬の投与によってのみ達成できると考えられています。

どの治療法を選択したらよいのかについては、主治医の先生にご相談ください。